秋をけりけり

 博多の書店をうろうろしていたら「おでかけアンソロジー」シリーズの「おさんぽ~私だけの道、見つけた。」なる文庫本が目に入った。

買ってみた。

その中に「秋をけりけり」という短編があった。村上春樹さんが書かれた数ページのもの。タイトルの「秋をけりけり」が入った次の詩を村上さんがその中で紹介されていた。

  新しい下駄を買ったからと、
  ひょっこりと友達が訪ねて来た。
  私は丁度ひげを剃り終へたところであつた。
  二人は郊外へ
  秋をけりけり歩いて行つた。

詩人木山捷平の詩だそうだ。秋をけりけり。私も気に入った。

また、このアンソロジーには池波正太郎さんの「散歩」なる文章も収録されていた。池波さんが、その中で、俳優ジャン・ギャバンが勲章をもらった際のパーティでの次の言葉を紹介されていた。

  人間はね、
  今日のスープの味がどうだったとか、
  今日は3時間ばかり、1人になって、
  ふらふら歩いてみようとか・・・、
  そんな他愛のないことをしながら、
  自分の商売で食っていければ、
  それがいちばん、いいんだよ。

「1人になって、ふらふらと歩いてみようとか・・、そんな他愛のないことを・・・」という言葉が池波さんは大好きだと書かれていた。そして、これが散歩の醍醐味だ、とも。


ここ熊本は令和8年は記録的な少雨で(昨年8月は豪雨災害だったのに、今年8月は降水量は1mm程度だったとか)、毎日、酷暑に近い気温が続き、外をふらふら歩いてみようなどという気分にはならなかった。

うっかりすると、ほんとにふらふらと歩く羽目に陥りかねなかった。

しかし、9月に入ってようやく、常軌を逸した気温が落ち着きを取り戻してくれた。

生れて初めて散歩用に帽子を買った。

せっかく買ったので、帽子をかぶって、家内と散歩を再開しよう。

秋の気配をけりけりしながら、まちの風景をまた楽しみたい。