2024年7月22日月曜日

坂道の風景~豊前・豊後街道へと法華坂を上る

熊本日日新聞で随時連載されている「坂道を上れば」で、(たぶん)1回目に紹介されているのが「法華(ほっけ)坂」です(こちら)。

熊本城へと通じる坂道で多くの人が最初に思いつくのは「行幸(みゆき)坂」でしょう。
坪井川沿いの遊歩道から、あるいは桜町のプロムナードからと観光客にとってのメインストリートから熊本城へと通じる坂道だからです。
実際、連日、多くの人が行幸坂を通り、熊本城へと歩いていかれます。

一方で、法華坂はというと、朝夕にウォーキングしている方は結構見かけますが、昼間はあまり歩いている人を見かけることは少なく、どちらかと言えば、車・バイク用の道として利用されているように思います。

撮影場所:32.80438972719652, 130.6990883020962
撮影日:2024年5月15日

案内板にあるように元々はジグザクの坂道だったようですが、今は直線化された車道になっていて、ここから二の丸駐車場へと上がれます。
熊本城や熊本県立美術館へと出かける方にとって、法華坂は車道以外の何物でもないかと思います。


車でぶーんと、熊本城へと向かう単なる通路として使っていると法華坂の趣きには気づかないかもしれません。
春は桜で非常にきれいです。
撮影日:2024年3月27日

桜が散ると今度は緑に覆われ、坂道をゆったりと上りながらゆっくりと散歩するのにおススメです。
撮影日:2024年5月15日

特におススメは、法華坂を途中で左に折れ、野鳥園を横に見ながら、二の丸広場へと上がっていく散歩道です。
家内と法華坂を散歩するときはいつもそのコースです。
里程元標跡から二の丸広場まで私が測ったところ、距離にして450m、高低差24mほどでした。

車で来た時でも、とりあえずドライバーだけ先に車で駐車場まで上がってもらい、それ以外の同乗者は下から散歩しながら歩いていった方が良さそうに思います。
熊日の記事の中で、近くに住む方の「行幸坂に比べて観光客は少ないが、趣があるのは法華坂。散歩していると鳥のさえずりが聞こえて心地いい。」という言葉を紹介されていました。私もまったく同感です。

法華坂を上り、二の丸広場に入る直前に案内板があります。
ここは法華坂は豊前街道と豊後街道であったということです。2つの街道が熊本城内を通っていて、それが北九州へと向かう豊前街道と大分へと向かう豊後街道へと城内で分岐していたのだとか。

私は、豊前街道については熊本県山鹿市で何度もフィールドワークし、また豊後街道については熊本県菊陽町・大津町で同じく何度もフィールドワークしていました。
熊本城がこれらの地への出発点だろうというのはなんとなくはわかっていました。
法華坂を歩き、「ここからだったのか」とあの頃のフィールドワークで学んだ地域のことについてひとつまた理解を深めることができ、感慨深いものがありました。

歩かないとやはり地域のディテールは見えないように思います。
民俗学者・宮本常一は、大局的な視点からみる「大きな歴史」だけでなく、日々を普通に暮らしている無名の人々を記録し、「忘れられた日本人」の中でそうした人たちの「小さな歴史」の大切さを描いていきました。そうした人たちに出会うために宮本が採った方法は日本中を歩いて回るということだったようです。
じっくりと歩いていると、普段見逃していることが如何に多いことかを毎回知ることになります。